伝道者の書

1章
1 エルサレムでの王、ダビデの子、伝道者のことば。
2 空の空。伝道者は言う。
空の空。すべては空。
3 日の下で、どんなに労苦しても、それが人に何の益になろう。

4 一つの時代は去り、次の時代が来る。
しかし地はいつまでも変わらない。
5 日は上り、日は沈み、またもとの上る所に帰って行く。
6 風は南に吹き、巡って北に吹く。
巡り巡って風は吹く。
しかし、その巡る道に風は帰る。
7 川はみな海に流れ込むが、海は満ちることがない。
川は流れ込む所に、また流れる。
8 すべての事はものうい。
人は語ることさえできない。
目は見て飽きることもなく、耳は聞いて満ち足りることもない。
9 昔あったものは、これからもあり、昔起こったことは、これからも起こる。
日の下には新しいものは一つもない。
10 「これを見よ。これは新しい」と言われるものがあっても、それは、私たちよりはるか先の時代に、すでにあったものだ。
11 先にあったことは記憶に残っていない。これから後に起こることも、それから後の時代の人々には記憶されないであろう。
12 伝道者である私は、エルサレムでイスラエルの王であった。
13 私は、天の下で行われるいっさいの事について、知恵を用いて、一心に尋ね、探り出そうとした。これは、人の子らが労苦するようにと神が与えたつらい仕事だ。
14 私は、日の下で行われたすべてのわざを見たが、なんと、すべてがむなしいことよ。風を追うようなものだ。

15 曲がっているものを、まっすぐにはできない。
なくなっているものを、数えることはできない。

16 私は自分の心にこう語って言った。「今や、私は、私より先にエルサレムにいただれよりも知恵を増し加えた。私の心は多くの知恵と知識を得た。」
17 私は、一心に知恵と知識を、狂気と愚かさを知ろうとした。それもまた風を追うようなものであることを知った。

18 実に、知恵が多くなれば悩みも多くなり、知識を増す者は悲しみを増す。

2章
1 私は心の中で言った。「さあ、快楽を味わってみるがよい。楽しんでみるがよい。」しかし、これもまた、なんとむなしいことか。
2 笑いか。ばからしいことだ。快楽か。それがいったい何になろう。
3 私は心の中で、私の心は知恵によって導かれているが、からだはぶどう酒で元気づけようと考えた。人の子が短い一生の間、天の下でする事について、何が良いかを見るまでは、愚かさを身につけていようと考えた。
4 私は事業を拡張し、邸宅を建て、ぶどう畑を設け、
5 庭と園を造り、そこにあらゆる種類の果樹を植えた。
6 木の茂った森を潤すために池も造った。
7 私は男女の奴隷を得た。私には家で生まれた奴隷があった。私には、私より先にエルサレムにいただれよりも多くの牛や羊もあった。
8 私はまた、銀や金、それに王たちや諸州の宝も集めた。私は男女の歌うたいをつくり、人の子らの快楽である多くのそばめを手に入れた。
9 私は、私より先にエルサレムにいただれよりも偉大な者となった。しかも、私の知恵は私から離れなかった。
10 私は、私の目の欲するものは何でも拒まず、心のおもむくままに、あらゆる楽しみをした。実に私の心はどんな労苦をも喜んだ。これが、私のすべての労苦による私の受ける分であった。
11 しかし、私が手がけたあらゆる事業と、そのために私が骨折った労苦とを振り返ってみると、なんと、すべてがむなしいことよ。風を追うようなものだ。日の下には何一つ益になるものはない。
12 私は振り返って、知恵と、狂気と、愚かさとを見た。いったい、王の跡を継ぐ者も、すでになされた事をするのにすぎないではないか。
13 私は見た。光がやみにまさっているように、知恵は愚かさにまさっていることを。
14 知恵ある者は、その頭に目があるが、愚かな者はやみの中を歩く。しかし、みな、同じ結末に行き着くことを私は知った。
15 私は心の中で言った。「私も愚かな者と同じ結末に行き着くのなら、それでは私の知恵は私に何の益になろうか。」私は心の中で語った。「これもまたむなしい」と。
16 事実、知恵ある者も愚かな者も、いつまでも記憶されることはない。日がたつと、いっさいは忘れられてしまう。知恵ある者も愚かな者とともに死んでいなくなる。
17 私は生きていることを憎んだ。日の下で行われるわざは、私にとってはわざわいだ。すべてはむなしく、風を追うようなものだから。
18 私は、日の下で骨折ったいっさいの労苦を憎んだ。後継者のために残さなければならないからである。
19 後継者が知恵ある者か愚か者か、だれにわかろう。しかも、私が日の下で骨折り、知恵を使ってしたすべての労苦を、その者が支配するようになるのだ。これもまた、むなしい。
20 私は日の下で骨折ったいっさいの労苦を思い返して絶望した。
21 どんなに人が知恵と知識と才能をもって労苦しても、何の労苦もしなかった者に、自分の分け前を譲らなければならない。これもまた、むなしく、非常に悪いことだ。
22 実に、日の下で骨折ったいっさいの労苦と思い煩いは、人に何になろう。
23 その一生は悲しみであり、その仕事には悩みがあり、その心は夜も休まらない。これもまた、むなしい。
24 人には、食べたり飲んだりし、自分の労苦に満足を見いだすよりほかに、何も良いことがない。これもまた、神の御手によることがわかった。
25 実に、神から離れて、だれが食べ、だれが楽しむことができようか。
26 なぜなら、神は、みこころにかなう人には、知恵と知識と喜びを与え、罪人には、神のみこころにかなう者に渡すために、集め、たくわえる仕事を与えられる。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。

3章
1 天の下では、何事にも定まった時期があり、すべての営みには時がある。
2 生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。
植えるのに時があり、植えた物を引き抜くのに時がある。
3 殺すのに時があり、いやすのに時がある。
くずすのに時があり、建てるのに時がある。
4 泣くのに時があり、ほほえむのに時がある。
嘆くのに時があり、踊るのに時がある。
5 石を投げ捨てるのに時があり、石を集めるのに時がある。
抱擁するのに時があり、抱擁をやめるのに時がある。
6 捜すのに時があり、失うのに時がある。
保つのに時があり、投げ捨てるのに時がある。
7 引き裂くのに時があり、縫い合わせるのに時がある。
黙っているのに時があり、話をするのに時がある。
8 愛するのに時があり、憎むのに時がある。
戦うのに時があり、和睦するのに時がある。

9 働く者は労苦して何の益を得よう。
10 私は神が人の子らに与えて労苦させる仕事を見た。
11 神のなさることは、すべて時にかなって美しい。神はまた、人の心に永遠を与えられた。しかし人は、神が行われるみわざを、初めから終わりまで見きわめることができない。
12 私は知った。人は生きている間に喜び楽しむほか何も良いことがないのを。
13 また、人がみな、食べたり飲んだりし、すべての労苦の中にしあわせを見いだすこともまた神の賜物であることを。
14 私は知った。神のなさることはみな永遠に変わらないことを。それに何かをつけ加えることも、それから何かを取り去ることもできない。神がこのことをされたのだ。人は神を恐れなければならない。
15 今あることは、すでにあったこと。これからあることも、すでにあったこと。神は、すでに追い求められたことをこれからも捜し求められる。
16 さらに私は日の下で、さばきの場に不正があり、正義の場に不正があるのを見た。
17 私は心の中で言った。「神は正しい人も悪者もさばく。そこでは、すべての営みと、すべてのわざには、時があるからだ。」
18 私は心の中で人の子らについて言った。「神は彼らを試み、彼らが獣にすぎないことを、彼らが気づくようにされたのだ。」
19 人の子の結末と獣の結末とは同じ結末だ。これも死ねば、あれも死ぬ。両方とも同じ息を持っている。人は何も獣にまさっていない。すべてはむなしいからだ。
20 みな同じ所に行く。すべてのものはちりから出て、すべてのものはちりに帰る。
21 だれが知っているだろうか。人の子らの霊は上に上り、獣の霊は地の下に降りて行くのを。
22 私は見た。人は、自分の仕事を楽しむよりほかに、何も良いことがないことを。それが人の受ける分であるからだ。だれが、これから後に起こることを人に見せてくれるだろう。

4章
1 私は再び、日の下で行われるいっさいのしいたげを見た。見よ、しいたげられている者の涙を。彼らには慰める者がいない。しいたげる者が権力をふるう。しかし、彼らには慰める者がいない。
2 私は、まだいのちがあって生きながらえている人よりは、すでに死んだ死人のほうに祝いを申し述べる。
3 また、この両者よりもっと良いのは、今までに存在しなかった者、日の下で行われる悪いわざを見なかった者だ。
4 私はまた、あらゆる労苦とあらゆる仕事の成功を見た。それは人間同士のねたみにすぎない。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。

5 愚かな者は、手をこまねいて、自分の肉を食べる。
6 片手に安楽を満たすことは、両手に労苦を満たして風を追うのにまさる。
7 私は再び、日の下にむなしさのあるのを見た。
8 ひとりぼっちで、仲間もなく、子も兄弟もない人がいる。それでも彼のいっさいの労苦には終わりがなく、彼の目は富を求めて飽き足りることがない。そして、「私はだれのために労苦し、楽しみもなくて自分を犠牲にしているのか」とも言わない。これもまた、むなしく、つらい仕事だ。
9 ふたりはひとりよりもまさっている。ふたりが労苦すれば、良い報いがあるからだ。
10 どちらかが倒れるとき、ひとりがその仲間を起こす。倒れても起こす者のいないひとりぼっちの人はかわいそうだ。
11 また、ふたりがいっしょに寝ると暖かいが、ひとりでは、どうして暖かくなろう。
12 もしひとりなら、打ち負かされても、ふたりなら立ち向かえる。三つ撚りの糸は簡単には切れない。
13 貧しくても知恵のある若者は、もう忠言を受けつけない年とった愚かな王にまさる。
14 たとい、彼が牢獄から出て来て王になったにしても、たとい、彼が王国で貧しく生まれた者であったにしても。
15 私は、日の下に生息するすべての生きものが、王に代わって立つ後継の若者の側につくのを見た。
16 すべての民には果てしがない。彼が今あるすべての民の先頭に立っても、これから後の者たちは、彼を喜ばないであろう。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。

5章
1 神の宮へ行くときは、自分の足に気をつけよ。近寄って聞くことは、愚かな者がいけにえをささげるのにまさる。彼らは自分たちが悪を行っていることを知らないからだ。
2 神の前では、軽々しく、心あせってことばを出すな。神は天におられ、あなたは地にいるからだ。だから、ことばを少なくせよ。
3 仕事が多いと夢を見る。
ことばが多いと愚かな者の声となる。
4 神に誓願を立てるときには、それを果たすのを遅らせてはならない。神は愚かな者を喜ばないからだ。誓ったことは果たせ。
5 誓って果たさないよりは、誓わないほうがよい。
6 あなたの口が、あなたに罪を犯させないようにせよ。使者の前で「あれは過失だ」と言ってはならない。神が、あなたの言うことを聞いて怒り、あなたの手のわざを滅ぼしてもよいだろうか。
7 夢が多くなると、むなしいことばも多くなる。
ただ、神を恐れよ。
8 ある州で、貧しい者がしいたげられ、権利と正義がかすめられるのを見ても、そのことに驚いてはならない。その上役には、それを見張るもうひとりの上役がおり、彼らよりももっと高い者たちもいる。
9 何にもまして、国の利益は農地を耕させる王である。
10 金銭を愛する者は金銭に満足しない。富を愛する者は収益に満足しない。これもまた、むなしい。
11 財産がふえると、寄食者もふえる。持ち主にとって何の益になろう。彼はそれを目で見るだけだ。
12 働く者は、少し食べても多く食べても、ここちよく眠る。富む者は、満腹しても、安眠をとどめられる。
13 私は日の下に、痛ましいことがあるのを見た。所有者に守られている富が、その人に害を加えることだ。
14 その富は不幸な出来事で失われ、子どもが生まれても、自分の手もとには何もない。
15 母の胎から出て来たときのように、また裸でもとの所に帰る。彼は、自分の労苦によって得たものを、何一つ手に携えて行くことができない。
16 これも痛ましいことだ。出て来たときと全く同じようにして去って行く。風のために労苦して何の益があるだろう。
17 しかも、人は一生、やみの中で食事をする。多くの苦痛、病気、そして怒り。
18 見よ。私がよいと見たこと、好ましいことは、神がその人に許されるいのちの日数の間、日の下で骨折るすべての労苦のうちに、しあわせを見つけて、食べたり飲んだりすることだ。これが人の受ける分なのだ。
19 実に神はすべての人間に富と財宝を与え、これを楽しむことを許し、自分の受ける分を受け、自分の労苦を喜ぶようにされた。これこそが神の賜物である。
20 こういう人は、自分の生涯のことをくよくよ思わない。神が彼の心を喜びで満たされるからだ。

6章
1 私は日の下で、もう一つの悪があるのを見た。それは人の上に重くのしかかっている。
2 神が富と財宝と誉れとを与え、彼の望むもので何一つ欠けたもののない人がいる。しかし、神は、この人がそれを楽しむことを許さず、外国人がそれを楽しむようにされる。これはむなしいことで、それは悪い病だ。
3 もし人が百人の子どもを持ち、多くの年月を生き、彼の年が多くなっても、彼が幸いで満たされることなく、墓にも葬られなかったなら、私は言う、死産の子のほうが彼よりはましだと。
4 その子はむなしく生まれて来て、やみの中に去り、その名はやみの中に消される。
5 太陽も見ず、何も知らずに。しかし、この子のほうが彼よりは安らかである。
6 彼が千年の倍も生きても、――しあわせな目に会わなければ――両者とも同じ所に行くのではないか。
7 人の労苦はみな、自分の口のためである。
しかし、その食欲は決して満たされない。
8 知恵ある者は、愚かな者より何がまさっていよう。人々の前での生き方を知っている貧しい人も、何がまさっていよう。
9 目が見るところは、心があこがれることにまさる。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。
10 今あるものは、何であるか、すでにその名がつけられ、また彼がどんな人であるかも知られている。彼は彼よりも力のある者と争うことはできない。
11 多く語れば、それだけむなしさを増す。それは、人にとって何の益になるだろう。
12 だれが知ろうか。影のように過ごすむなしいつかのまの人生で、何が人のために善であるかを。だれが人に告げることができようか。彼の後に、日の下で何が起こるかを。

7章
1 良い名声は良い香油にまさり、死の日は生まれる日にまさる。
2 祝宴の家に行くよりは、喪中の家に行くほうがよい。
そこには、すべての人の終わりがあり、生きている者が
それを心に留めるようになるからだ。
3 悲しみは笑いにまさる。
顔の曇りによって心は良くなる。
4 知恵ある者の心は喪中の家に向き、愚かな者の心は楽しみの家に向く。
5 知恵ある者の叱責を聞くのは、愚かな者の歌を聞くのにまさる。
6 愚かな者の笑いは、なべの下のいばらがはじける音に似ている。
これもまた、むなしい。
7 しいたげは知恵ある者を愚かにし、まいないは心を滅ぼす。
8 事の終わりは、その初めにまさり、忍耐は、うぬぼれにまさる。
9 軽々しく心をいらだててはならない。
いらだちは愚かな者の胸にとどまるから。
10 「どうして、昔のほうが今より良かったのか」と言ってはならない。このような問いは、知恵によるのではない。
11 資産を伴う知恵は良い。
日を見る人に益となる。
12 知恵の陰にいるのは、金銭の陰にいるようだ。
知識の益は、知恵がその持ち主を生かすことにある。
13 神のみわざに目を留めよ。神が曲げたものをだれがまっすぐにできようか。
14 順境の日には喜び、逆境の日には反省せよ。これもあれも神のなさること。それは後の事を人にわからせないためである。
15 私はこのむなしい人生において、すべての事を見てきた。正しい人が正しいのに滅び、悪者が悪いのに長生きすることがある。
16 あなたは正しすぎてはならない。知恵がありすぎてはならない。なぜあなたは自分を滅ぼそうとするのか。
17 悪すぎてもいけない。愚かすぎてもいけない。自分の時が来ないのに、なぜ死のうとするのか。
18 一つをつかみ、もう一つを手放さないがよい。神を恐れる者は、この両方を会得している。
19 知恵は町の十人の権力者よりも知恵者を力づける。
20 この地上には、善を行い、罪を犯さない正しい人はひとりもいないから。
21 人の語ることばにいちいち心を留めてはならない。あなたのしもべがあなたをのろうのを聞かないためだ。
22 あなた自身も他人を何度ものろったことを知っているからだ。
23 私は、これらのいっさいを知恵によって試み、そして言った。「私は知恵ある者になりたい」と。しかし、それは私の遠く及ばないことだった。
24 今あることは、遠くて非常に深い。だれがそれを見きわめることができよう。
25 私は心を転じて、知恵と道理を学び、探り出し、捜し求めた。愚かな者の悪行と狂った者の愚かさを学びとろうとした。
26 私は女が死よりも苦々しいことに気がついた。女はわなであり、その心は網、その手はかせである。神に喜ばれる者は女からのがれるが、罪を犯す者は女に捕らえられる。
27 見よ。「私は道理を見いだそうとして、一つ一つに当たり、見いだしたことは次のとおりである」と伝道者は言う。
28 私はなおも捜し求めているが、見いださない。私は千人のうちに、ひとりの男を見いだしたが、そのすべてのうちに、ひとりの女も見いださなかった。
29 私が見いだした次の事だけに目を留めよ。神は人を正しい者に造られたが、人は多くの理屈を捜し求めたのだ。

8章
1 だれが知恵ある者にふさわしいだろう。
だれが事物の意義を知りえよう。
人の知恵は、その人の顔を輝かし、その顔の固さを和らげる。

2 私は言う。王の命令を守れ。神の誓約があるから。
3 王の前からあわてて退出するな。悪事に荷担するな。王は自分の望むままを何でもするから。
4 王のことばには権威がある。だれが彼に、「あなたは何をするのですか」と言えようか。
5 命令を守る者はわざわいを知らない。
知恵ある者の心は時とさばきを知っている。

6 すべての営みには時とさばきがある。人に降りかかるわざわいが多いからだ。
7 何が起こるかを知っている者はいない。いつ起こるかをだれも告げることはできない。
8 風を支配し、風を止めることのできる人はいない。死の日も支配することはできない。この戦いから放免される者はいない。悪は悪の所有者を救いえない。
9 私はこのすべてを見て、日の下で行われるいっさいのわざ、人が人を支配して、わざわいを与える時について、私の心を用いた。
10 そこで、私は見た。悪者どもが葬られて、行くのを。しかし、正しい行いの者が、聖なる方の所を去り、そうして、町で忘れられるのを。これもまた、むなしい。
11 悪い行いに対する宣告がすぐ下されないので、人の子らの心は悪を行う思いで満ちている。
12 罪人が、百度悪事を犯しても、長生きしている。しかし私は、神を恐れる者も、神を敬って、しあわせであることを知っている。
13 悪者にはしあわせがない。その生涯を影のように長くすることはできない。彼らは神を敬わないからだ。
14 しかし、むなしいことが地上で行われている。悪者の行いに対する報いを正しい人がその身に受け、正しい人の行いに対する報いを悪者がその身に受けることがある。これもまた、むなしい、と私は言いたい。
15 私は快楽を賛美する。日の下では、食べて、飲んで、楽しむよりほかに、人にとって良いことはない。これは、日の下で、神が人に与える一生の間に、その労苦に添えてくださるものだ。
16 私は一心に知恵を知り、昼も夜も眠らずに、地上で行われる人の仕事を見ようとしたとき、
17 すべては神のみわざであることがわかった。人は日の下で行われるみわざを見きわめることはできない。人は労苦して捜し求めても、見いだすことはない。知恵ある者が知っていると思っても、見きわめることはできない。

9章
1 というのは、私はこのいっさいを心に留め、正しい人も、知恵のある者も、彼らの働きも、神の御手の中にあることを確かめたからである。彼らの前にあるすべてのものが愛であるか、憎しみであるか、人にはわからない。
2 すべての事はすべての人に同じように起こる。同じ結末が、正しい人にも、悪者にも、善人にも、きよい人にも、汚れた人にも、いけにえをささげる人にも、いけにえをささげない人にも来る。善人にも、罪人にも同様である。誓う者にも、誓うのを恐れる者にも同様である。
3 同じ結末がすべての人に来るということ、これは日の下で行われるすべての事のうちで最も悪い。だから、人の子らの心は悪に満ち、生きている間、その心には狂気が満ち、それから後、死人のところに行く。
4 すべて生きている者に連なっている者には希望がある。生きている犬は死んだ獅子にまさるからである。
5 生きている者は自分が死ぬことを知っているが、死んだ者は何も知らない。彼らにはもはや何の報いもなく、彼らの呼び名も忘れられる。
6 彼らの愛も憎しみも、ねたみもすでに消えうせ、日の下で行われるすべての事において、彼らには、もはや永遠に受ける分はない。
7 さあ、喜んであなたのパンを食べ、愉快にあなたのぶどう酒を飲め。
神はすでにあなたの行いを喜んでおられる。
8 いつもあなたは白い着物を着、頭には油を絶やしてはならない。
9 日の下であなたに与えられたむなしい一生の間に、あなたの愛する妻と生活を楽しむがよい。それが、生きている間に、日の下であなたがする労苦によるあなたの受ける分である。
10 あなたの手もとにあるなすべきことはみな、自分の力でしなさい。あなたが行こうとしているよみには、働きも企ても知識も知恵もないからだ。
11 私は再び、日の下を見たが、競走は足の早い人のものではなく、戦いは勇士のものではなく、またパンは知恵ある人のものではなく、また富は悟りのある人のものではなく、愛顧は知識のある人のものではないことがわかった。すべての人が時と機会に出会うからだ。
12 しかも、人は自分の時を知らない。悪い網にかかった魚のように、わなにかかった鳥のように、人の子らもまた、わざわいの時が突然彼らを襲うと、それにかかってしまう。
13 私はまた、日の下で知恵についてこのようなことを見た。それは私にとって大きなことであった。
14 わずかな人々が住む小さな町があった。そこに大王が攻めて来て、これを包囲し、これに対して大きなとりでを築いた。
15 ところが、その町に、貧しいひとりの知恵ある者がいて、自分の知恵を用いてその町を解放した。しかし、だれもこの貧しい人を記憶しなかった。
16 私は言う。「知恵は力にまさる。しかし貧しい者の知恵はさげすまれ、彼の言うことも聞かれない。」
17 知恵ある者の静かなことばは、愚かな者の間の支配者の叫びよりは、よく聞かれる。
18 知恵は武器にまさり、ひとりの罪人は多くの良いことを打ちこわす。

10章
1 死んだはえは、調合した香油を臭くし、発酵させる。
少しの愚かさは、知恵や栄誉よりも重い。
2 知恵ある者の心は右に向き、愚かな者の心は左に向く。

3 愚か者が道を行くとき、思慮に欠けている。
自分が愚かであることを、みなに知らせる。
4 支配者があなたに向かって立腹しても、あなたはその場を離れてはならない。
冷静は大きな罪を犯さないようにするから。

5 私は、日の下に一つの悪があるのを見た。
それは
権力者の犯す過失のようなものである。
6 愚か者が非常に高い位につけられ、富む者が低い席に着けられている。
7 私は奴隷たちが馬に乗り、君主たちが奴隷のように地を歩くのを見た。

8 穴を掘る者はそれに落ち込み、石垣をくずす者は蛇にかまれる。
9 石を切り出す者は石で傷つき、木を割る者は木で危険にさらされる。
10 もし斧が鈍くなったとき、その刃をとがないと、もっと力がいる。
しかし知恵は人を成功させるのに益になる。
11 もし蛇がまじないにかからずにかみつくなら、それは蛇使いに何の益にもならない。

12 知恵ある者が口にすることばは優しく、愚かな者のくちびるはその身を滅ぼす。
13 彼が口にすることばの始まりは、愚かなこと、彼の口の終わりは、みじめな狂気。
14 愚か者はよくしゃべる。
人はこれから起こることを知らない。
これから後に起こることを
だれが告げることができよう。
15 愚かな者の労苦は、おのれを疲れさせる。
彼は町に行く道さえ知らない。

16 わざわいなことよ。
あなたの王が子どもであって、あなたの首長たちが朝から食事をする国は。
17 幸いなことよ。
あなたの王が貴族の出であって、あなたの首長たちが、酔うためではなく、力をつけるために、定まった時に、食事をする国は。

18 なまけていると天井が落ち、手をこまねいていると雨漏りがする。
19 食事をするのは笑うため。
ぶどう酒は人生を楽しませる。
金銭はすべての必要に応じる。
20 王をのろおうと、ひそかに思ってはならない。
寝室でも富む者をのろってはならない。
なぜなら、空の鳥がその声を持ち運び、翼のあるものがそのことを告げるからだ。

11章
1 あなたのパンを水の上に投げよ。
ずっと後の日になって、あなたはそれを見いだそう。
2 あなたの受ける分を七人か八人に分けておけ。
地上でどんなわざわいが起こるか
あなたは知らないのだから。
3 雲が雨で満ちると、それは地上に降り注ぐ。
木が南風や北風で倒されると、その木は倒れた場所にそのままにある。
4 風を警戒している人は種を蒔かない。
雲を見ている者は刈り入れをしない。
5 あなたは妊婦の胎内の骨々のことと同様、風の道がどのようなものかを知らない。そのように、あなたはいっさいを行われる神のみわざを知らない。
6 朝のうちにあなたの種を蒔け。夕方も手を放してはいけない。あなたは、あれか、これか、どこで成功するのか、知らないからだ。二つとも同じようにうまくいくかもわからない。
7 光は快い。太陽を見ることは目のために良い。
8 人は長年生きて、ずっと楽しむがよい。だが、やみの日も数多くあることを忘れてはならない。すべて起こることはみな、むなしい。
9 若い男よ。若いうちに楽しめ。若い日にあなたの心を喜ばせよ。あなたの心のおもむくまま、あなたの目の望むままに歩め。しかし、これらすべての事において、あなたは神のさばきを受けることを知っておけ。
10 だから、あなたの心から悲しみを除き、あなたの肉体から痛みを取り去れ。若さも、青春も、むなしいからだ。

12章
1 あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない」と言う年月が近づく前に。
2 太陽と光、月と星が暗くなり、雨の後にまた雨雲がおおう前に。
3 その日には、家を守る者は震え、力のある男たちは身をかがめ、粉ひき女たちは少なくなって仕事をやめ、窓からながめている女の目は暗くなる。
4 通りのとびらは閉ざされ、臼をひく音も低くなり、人は鳥の声に起き上がり、歌を歌う娘たちはみなうなだれる。
5 彼らはまた高い所を恐れ、道でおびえる。アーモンドの花は咲き、いなごはのろのろ歩き、ふうちょうぼくは花を開く。だが、人は永遠の家へと歩いて行き、嘆く者たちが通りを歩き回る。
6 こうしてついに、銀のひもは切れ、金の器は打ち砕かれ、水がめは泉のかたわらで砕かれ、滑車が井戸のそばでこわされる。
7 ちりはもとあった地に帰り、霊はこれを下さった神に帰る。
8 空の空。伝道者は言う。すべては空。
9 伝道者は知恵ある者であったが、そのうえ、知識を民に教えた。彼は思索し、探求し、多くの箴言をまとめた。
10 伝道者は適切なことばを見いだそうとし、真理のことばを正しく書き残した。
11 知恵ある者のことばは突き棒のようなもの、編集されたものはよく打ちつけられた釘のようなものである。これらはひとりの羊飼いによって与えられた。
12 わが子よ。これ以外のことにも注意せよ。多くの本を作ることには、限りがない。多くのものに熱中すると、からだが疲れる。
13 結局のところ、もうすべてが聞かされていることだ。神を恐れよ。神の命令を守れ。これが人間にとってすべてである。
14 神は、善であれ悪であれ、すべての隠れたことについて、すべてのわざをさばかれるからだ。